三枝:おっしゃる通りで、親はどうしても子に失敗させないように先周りしてしまいがちですね。今は、世の中全体が過保護というか、そういう傾向が出ている気がしますよね。
ヤマザキ:心配なのはわかるのですが、人間の社会は危険がいっぱいであることを、人間は必ずどこかで知らされます。だから、子どものうちに自然の森のような、生物である自分と向き合える場所でひとりを感じることも必要だと思うのです。親御さんが子どもたちのことを気にかけ過ぎて、なるべく世の中の危険や嫌な面を見せたくないと思って頑張れば頑張るほど、社会の実態を知らないで大人になってしまうことになるんです。「世の中には野獣がいっぱいいるのよ」ということを、隠すのではなく、子どもの時にちゃんと教えてあげなければいけない。つきっきりで側にいるのじゃなくて、「何でも経験していらっしゃい。いつでも帰ってきていいし、何かあったらお母さんが守るからね。どこにいても助けてあげるから」という姿勢は大事だと思います。私の場合母のそういう距離感がありがたかった。
三枝:なるほどね。みなさん、自然に身を置くことがすごく大切ということをおっしゃるんですけれども、それプラス、瞬間でも孤独感をちゃんと味わう。そういうことですよね。
ヤマザキ:そうです。そういう孤独を、成長の機会のひとつとして捉えられずに避けて通ってしまうと、なにかあった時に、やっぱり自分の弱さの対処に困起ってしまうような自体になるのだと思います。
私は時々、子どもの時の感覚を呼び覚ましたい欲求がわくことがあって、そんな時は近所の等々力渓谷や多摩川河川敷を一人で散歩します。樹木や川べりだと生体反応がどっからともなくあってね。虫だったり鳥だったり。そうすると「生き物は地球から守られて生きている。孤独だとかいってメソメソしているのは人間だけだ」という実感が湧く。自然の中には生きる拠り所となるようなメッセージがたくさん溢れています。自然の中に身をおくと、「生きていていいんだよ。息できるでしょう。お日様も照っているでしょう。緑もあるでしょう」って。それだけで、「ああ、そうね。私は、生きていてよかったのね」と思えるじゃないですか。
S:ヤマザキさん、現代のレイチェル・カーソンですね(笑)。『センス・オブ・ワンダー』の。
レイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』新潮社
ヤマザキ:『センス・オブ・ワンダー』は素晴らしい本ですね。
三枝:カーソンも近いことを書いていますよね。自然は帰る場所であり、知ることよりも感じることが大切だと。森をどう感じるか。千差万別だけれど、その感性は生きるために必要だということ。生きているといろんなことがある、その時に、自分がリセットを出来る場所を持っていることが大切、ということなのかな。
【ELISABETTA FRANCHI】ミニカーディガン レディース 全3色自然は、「生きていて良いんだよ、生まれてきて良かったんだよ」というメッセージをもらえる場所ですね。
うちの息子、デルスというのですけど、『デルス・ウザーラ』という黒澤明の映画からとったんです。デルス・ウザーラは、伝説上の人物なんですが、東シベリアの未開の地に大自然と共存して生きる孤独な猟師です。彼は、最終的には発達した文明の犠牲となって不条理な死を遂げてしまうのですけれど、その全編から、彼が地球に愛されて生きているということが横溢してくるんです。
息子にも、誰かから愛される以前に、デルス・ウザーラのように「地球から愛される人」になって欲しい。「生まれてきたよかったんだよ、あなたは」という地球からのメッセージを感じられる人になってもらいたいと思って名付けました。
家族と死に別れたり、もしくは家族が破綻してしまうこともあるかもしれない。でも、何はともあれ、人間関係よりも絶対的に裏切らない、完全な真実って思えるのはこの地球という惑星で他の生物ともども生きているということ。大気圏内に生まれてきた命を全うすればいい。すごくシンプルなことじゃないですか。
『ゼロ・グラビティ』っていう映画を時々思い出すんですが、あれは宇宙から無事地球に帰還できるかどうかという話です。主人公にとって、どこの国のどこに着くかなんてどうでもいいんです。大気圏内に帰ってきて息ができているっていう、その安堵をあのラストシーンを見た人は誰しも感じるんじゃないでしょうか。地球はどんな生きものにも平等に生きていける環境を提供してくれている。それだけでもう充分。
【CELINE】ミニ AVA バッグ トリオンフキャンバス&カーフスキン倫理観が違ったり相互理解は成立しなくても、お互いの生き方をリスペクトしながら共生していけばいいのです。人間以外の生き物は皆種族が違っても森や海の中で皆共生しています。